がんとともに生きる
陰茎がん
陰茎がんとは?
陰茎がんは男性の悪性腫瘍のなかで0.5%未満とまれながんです。わが国においては人口10万人当たり0.2人の発生頻度と報告され、発症年齢は60歳台に最も多くみられます。
古くは陰茎がん患者の多くが包茎を合併していること、割礼(包茎手術)を子供の時に行うユダヤ人には陰茎がん患者がほとんどみられないことなどから、包茎により包皮の内側に恥垢を含めたさまざまな微生物や分泌物などが貯留し、慢性の刺激により発がんを促していると考えられていました。
しかし、最近は必ずしも包茎との関連性がみられるわけではなく、むしろヒトパピローマウイルス感染の関与が示唆される症例が増えています。つまり、婦人科における子宮頚がんと同様に、性行為感染症が何らかの関与をしていることが推測されています。
また、喫煙者の陰茎がんの発症リスクは非喫煙者の2.8~4.5倍高くなるとされています。
陰茎がんの病理組織は、皮膚がんの一つですから扁平上皮がんがほとんどであり(95%以上)、大部分の症例が比較的おとなしい高分化型です。
陰茎がんの症状
陰茎がんの原発病変は、カリフラワーのような腫瘤形成や浅いびらん、もしくは周囲が隆起した深い潰瘍を示すことが多く見られます。湿疹のような発赤から次第に深部に浸潤していくものもありますので、湿疹だと思って外用薬をつけてもなかなか改善しない場合には、泌尿器科専門医の診察を受けることが必要です。特に包茎で、強い臭気や浸出液を伴う場合は、強く陰茎がんを疑う根拠になります。
発生部位は半数が亀頭部で、次が包皮です。ついで冠状溝に多く、陰茎体部の皮膚に発生することは比較的まれです。局所の疼痛を感じることはまれで、かなり進行しても疼痛の症状は軽度です。進行すると鼠径リンパ節に転移をきたし、さらには血行性に転移をきたし、全身倦怠感や体重減少を示すこともあります。
陰茎がんの診断
視触診
視診にて病変部の確認を行います。触診にて圧痛や硬い組織の有無、陰茎白膜、尿道への浸潤を調べます。また、他の性感染症との鑑別が困難な場合も少なくないので、視触診にて陰茎がんが疑われる時には早めに組織検査(生検)を行い、病理学的に確定診断を得ます。
血液検査
陰茎がんでは特異的な腫瘍マーカーはなく、採血結果も正常範囲内であることがほとんどです。
しかし、リンパ節転移や遠隔転移を有する進行例では、血液中のSCC抗原が高くなり、腫瘍マーカーとしての有用性が示唆されています。
画像検査
局所の浸潤(白膜、海綿体、尿道への浸潤)の程度を調べるために、超音波検査やMRI検査を行います。
鼠径部や骨盤内のリンパ節転移、さらには遠隔転移の有無を診断するために、CT検査を行います。
陰茎がんの治療
陰茎部分切断術
陰茎の先端近くにできたがんでは、陰茎を途中で切断して治療します。手術後、立位での排尿は可能です。
陰茎全切断術
浸潤がんでは通常陰茎を根部から切断することが必要です。新しい尿道の出口は新たに会陰部に作られるので、排尿は女性と同じように座位で行うことになります。
鼠径リンパ節廓清
臨床的にリンパ節転移が疑われる症例では、通常鼠径リンパ節を摘除します。術後に下肢浮腫が出現しやすく、弾性ストッキングなどの着用が必要となることがあります。
放射線療法
適応は、一般的に原発巣に限られ、がん細胞が比較的浅いところにある腫瘍に対して行われます。
副作用として、潰瘍形成、尿道狭窄などがあります。鼠径リンパ節などの転移巣に対しての有用性は明かではありません。
化学療法
リンパ節転移を有する症例では、リンパ節郭清と併用して化学療法を行うことがあります。
また、診断時より手術不可能と考えられる進行例では、まず化学療法を行い、腫瘍の縮小を図ってから手術を行うことも考えられます。
抗がん剤としては通常、ブレオマイシン・ビンクリスチン・メソトレキセートの3剤併用療法やシスプラチンと5-フロオロウラシル(5-FU)の2剤併用療法が行われます。
再発の診断と治療
局所再発、鼠径リンパ節の再発ともに2年以内が多く、術後2年間は3~6カ月、その後は6~12カ月毎の経過観察を行います。特に陰茎温存治療を行った場合は、自己診断も重要で定期的なセルフチェックも行っていただいております。
また、再発の90%は5年以内ですので、少なくとも5年間の経過観察は必須とされています。