当院について
「おもてなし通信」第2号(2023.10)
もくじ
- 特集「腸活のススメ」
腸内細菌の底ヂカラ/究極の腸活:大腸カメラ/腸がよろこぶレシピ - CLOSE-UP地域医療「がんのセカンドオピニオン」
それは、大事な患者さんの権利/それは、大事な患者さんの権利 - プロフェッショナルDAIDOの流儀
診療看護師(NP)
「医師と看護師の視点をもつ、チーム医療のキープレイヤー」
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腸活のススメ
腸内細菌を育てて、キレイに、健康に!
口から肛門に至る消化管は、身体の中にあって外界と接する「内なる外」であり、多くの病原体やウイルスと常に触れ合っている。
ゆえに、そうしたものからわたしたちの身体を防御するはたらきがある。特に大腸は、多くの「腸内細菌」が棲みつき、口などから侵入してくる新たな病原菌の増殖を抑える最前線基地だ。善玉菌と悪玉菌が常に勢力を争うほか、胃・小腸で消化された食物の残りカスから人間の免疫機能などに役立つ貴重な栄養素が作り出される。腸内細菌はまるで錬金術師のようだ。美肌や健康にいいと、ちまたで取りざたされる腸内細菌に、DAIDO流に迫ってみたい。
腸内細菌の旅
わたしたちが食べたものは、まず胃で溶かされ、小腸で糖やタンパク質、脂肪などの分解が進み体内に吸収されていく。大腸では水分の吸収と発酵が進み、残りカスが便として排泄される。ところが、この便の約半分は死滅した、あるいは生きている腸内細菌というのだからオドロキだ。わたしたちはまさに、たくさんの腸内細菌を体内に飼っている、いや、むしろ細菌に飼われているといってもいいくらいだ。
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術後合併症をも防ぐ、腸内細菌の底ヂカラ
腸内フローラのバランスは食生活や年齢によって変化します。抗菌薬(抗生物質)の使用や、心身が受けるストレスなども、それに重要な影響を与えます。
特に食道がんや肝臓・胆道がんなどの、長時間におよぶ外科手術では、術後に感染性の合併症リスクが高くなります。そういう悪さをする細菌はだいたい大腸にいるもの。手術という大きなストレスが加わると、腸の中にいる細菌が腸の粘膜を通って血液やリンパ管に流れ込んでしまうのです。
術前・術後に乳酸菌飲料などを飲用し、腸内細菌のバランスを整えておくことで、術後の合併症が減るということが分かっています。腸を〝鍛え〟ておけば、急に手術となっても、腸内細菌たちは、わたしたちの力強い味方になってくれるはずです。
悪玉菌が腸から漏れ出すとたいへん!
腸には栄養を吸収する一方、細菌が体内に入ることを防ぐバリア機能が備わっていますが、その機能が低下すると悪い菌が腸壁から漏れ出し、血管内に入り込みます(リーキーガット)。すると身体のあちらこちらへ運ばれ、他の臓器において、感染症を引き起こすようになります(バクテリアル・トランスロケ―ション)。そうならないよう、腸内細菌のバランスを整えておくことが大事なのです。
善玉菌にもエサをどんどんあげよう!
シンバイオティクスという考え方があります。これは、乳酸菌やビフィズス菌といったお腹にうれしい善玉菌(プロバイオティクス)と、それらのエサになる食物繊維(プレバイオティクス)を一緒に摂ることで相乗効果を発揮させようというもの。
健康飲料や健康食品として発売されているものの多くはこの概念を取り入れていますし、発酵食品などで善玉菌を摂取するときに、食物繊維の多い野菜やオリゴ糖などを合わせてたっぷり摂ることが、腸内環境の改善につながるとされています。
究極の腸活:大腸カメラ検査を受けてみよう!
大腸内視鏡検査を受けて、腸の健康を確認し、トラブルがあったら早期に対応する。
これこそ、究極の腸活だといえるでしょう!
STEP1 腸をしっかりリセット
50歳も過ぎれば、がん検診の一環としてぜひ受けていただきたいのが大腸内視鏡検査です。症状のある方の精査や大腸ポリープの切除治療では必須となります。
検査は、下剤によって腸内をキレイにしてから実施します。「宿便」と呼ばれているような、腸内に滞留した便もスッキリ。腸内細菌叢は年齢とともにその内容が変わり、腸内トラブルも起こりやすくなるもの。ぜひ、定期的に管理していきましょう。
STEP2 目で視て確認
内視鏡はカメラを消化管のなかに直接挿入して、画像を映し出します。出てきた便を調べる便潜血検査や、レントゲン検査などに比べて、腸内の状態を調べる能力に優れています。ポリープがないか、炎症が起きていないかなど、手に取るようにクリアに把握します。ポリープが見つかれば、多くはその場で対処することができますし、大腸がんが見つかったとしても、早期のものであれば、内視鏡で切除(ESD)することも可能です。
当院の内視鏡センターには経験豊かな医師が揃い、痛みが心配という方には鎮静剤を使用したり、女性の方などで同性の医師を希望されればお応えするなど、受診者の方の気持ちに配慮して、年間4,000件を超える大腸カメラ検査を実施しています。
STEP3 万一がんなら、胸腔鏡手術
大腸がんの罹患数は、男性では15%(第3位)、女性では16%(第2位)と非常に多いがんです。亡くなる人も年間5万人に及びます(2021年)。しかし、早期発見できれば開腹しない腹腔鏡手術で完治が望めます。腹腔鏡手術はキズが小さく、合併症も少なく、術後の回復も早い。当院ではロボット手術も導入し、より安全で精密な手術をめざしています。
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渡邉 克隆 消化器・一般外科主任部長 内視鏡外科手術(小さなキズあとの手術)センター長
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西川 貴広 消化器内科主任部長、内視鏡センター長
腸がよろこぶレシピ
腸によいとされる、食物繊維の多い食材や発酵食品を使って、美味しく手軽に腸活を始めましょう。
管理栄養士が、レシピをご紹介します。前項でご紹介したシンバイオティクスも実現!
黒酢酢豚
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黒酢をつかえば酸味まろや、コク深い味わいに!(1人分620kcal)
黒酢がなくて普通の酢を使う場合には、砂糖をやや多めに。
作り方
- 豚肉を2cm角に切り、調味料Aを加えて揉み込んで下味を付けたら、5~10分放置する。玉ねぎ、レンコンをくし切り、パプリカを乱切り、エリンギを2cm程度に切る。
- 豚肉の下味が付いたら片栗粉大さじ1を加え、全体になじませる。さらに片栗粉大さじ1 を加え、全体にまぶす。
- 2 を180℃の油で中に火が通るまで揚げる(約5分程度)。
レンコン、パプリカをサッと素揚げにする(約1分程度)。 - フライパンにゴマ油を入れ、玉ねぎ・エリンギを炒める。軽く火が通ったら素揚げにしたレンコン・パプリカを加え、サッと炒めて取り出す。
- フライパンに調味料Bを入れて一煮立ちさせる。そこに水溶き片栗粉を回し入れ、とろみを付ける。
- 豚肉、炒めた野菜を入れて、全体にからめながらサッと炒めたら完成。
材料(1人前)
- 豚肩ロース 100g
- 玉ねぎ 1/4玉
- レンコン 50g
- パプリカ 1/4個
- エリンギ 60g
- 調味料A
醤油 小さじ1
料理酒 小さじ1
生姜 小さじ1/2 - 調味料B
黒酢 30ml
砂糖 大さじ1~2
鶏ガラだし 小さじ1
醤油 小さじ1
水 30ml
片栗粉 大さじ2
水溶き片栗粉 大さじ1~2
ゴマ油 大さじ1
材料を混ぜるだけの簡単レシピも!
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納豆キムチ
納豆1 パック(たれやからしはなしでOK)
キムチ50g(発酵と表示のあるものがGOOD)
クリームチーズはお好みで -
甘酒きな粉ヨーグルト
プレーンヨーグルト100g くらい
甘酒大さじ1くらい(米麴が原料の濃縮タイプ)
きな粉はお好みで
管理栄養士からのふたことアドバイス
発酵食品を摂ろう!
発酵食品は、善玉菌を含む・増やす、悪玉菌を減らすなど、腸内環境の強い味方。今回のレシピでは、酢(黒酢)、納豆、キムチ、チーズ、ヨーグルト、甘酒が発酵食品です。
食物繊維やオリゴ糖も摂ろう!
食物繊維やオリゴ糖は、腸内の善玉菌を増やす効果があります。エリンギ、レンコン、キムチ(白菜)、大豆(納豆、
きな粉)は食物繊維を豊富に含み、オリゴ糖は玉ねぎや大豆に多く含まれます。野菜やきのこに多い不溶性食物繊維は、腸の働きを活発にして便通を促す効果もあります。
(大同病院 栄養科 管理栄養士 森下俊介)
よくあるご相談
Q:乳酸菌などの腸によい菌を含む食材を調理で加熱したら、死んでしまうのでは?
A:菌類は熱で死滅しますが、最近の研究によると、死んだ乳酸菌は、腸内の悪玉菌を体外へ排出する働きがあることがわかってきました。一方、生きて腸まで届いた乳酸菌は善玉菌を増やし、悪玉菌を退治する働きがあります。腸のためには、生きた菌と死んだ菌を両方摂ると、より効果的といえます。
Q:お腹がゆるくなりやすいのですが、食物繊維をたくさん摂っても大丈夫?
A:下痢の原因は、ストレスや細菌、消化器疾患、薬の副作用などさまざまです。中には食物繊維が多い食材は好ましくない場合もありますので、気になる腸の症状がある方は、受診して医師や管理栄養士にご相談ください。
CLOSE-UP地域医療
がんのセカンドオピニオン
予防医療、そして手術や放射線、薬物療法といった標準治療が進化し
“がんは治る”時代となった。とはいえやはり「がん」と言われたら、その治療方法の選択に悩むケースは少なくないだろう。
「セカンドオピニオン」という医療制度がある。主治医の見立て・治療方法の提案とは別の視点による意見を求める方法だ。
それは、大事な患者さんの権利
セカンドオピニオンは、がんなどの治療に際し、主治医の提案にとどまらず、患者さん自身が広く情報を求め、納得して治療法を決めるためのものだ。すべての患者さんが持つ権利であり、積極的に活用してほしいと語るのは、当院顧問の梛野正人医師だ。
「医療の専門分野が細分化し、その病気に特化した専門家から、より効果的な治療提案を受けられる可能性もあります。
主治医に気兼ねして言い出しにくい、という声をよく聞きますが、それで機嫌を害するような医師なら、治療を任せないほうが良いと思います。医師は患者さんが〝治りたい〟という気持ちを大事にし、納得して治療方法を選んでいただくよう後押しすべきなのです」
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受けるタイミングは、治療の節目
セカンドオピニオンはいつ受けるのが良いのだろうか。当院腫瘍内科部長の浅井暁医師に聞いてみた。
- がんと診断後、治療を開始する前
- 一定の治療を行って顕著な効果がなく、別の治療に切り替えようとするとき
- 自身が納得できないとき
「がんが進行してくると、患者さんやご家族はいろいろ思い悩みます。手術や化学療法を受けるにも体力が必要なため、どこかのタイミングでは〝治癒〟ではなく、〝緩和〟という考え方が必要になることもあります。わたしたちは、病と闘う患者さんに応えるだけでなく、ゆるやかに終末期を迎えるための意思決定も支援しています」
当院ではがん診療拠点病院として「がん相談支援センター」も開設している。これは当院を受診していない、地域の人たちにも開かれている。「がん」治療に関する悩みごとがあれば、ぜひ利用してほしい。
プロフェッショナルDAIDOの流儀
医師と看護師の視点をもつ、チーム医療のキープレイヤー~診療看護師
診療看護師(Nurse practitioner、以下NP)という職種をご存知だろうか。
看護師として一定の経験を積んだのちに、大学院で専門的に学んで認定を受け、臨床において規程レベルの診療を行うことができる。日本ではまだ民間資格で、その歴史も十数年と浅いが、アメリカなどでは、医師の補助のほか、プライマリケアの主体となっている地域もあり、医師の負担軽減およびタスクシフト策としても期待されている。
大同病院では、市中の民間病院としては珍しく、NPが多く活躍する。今回はそのNPの一人である越智優馬にインタビューした。
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2015年看護師になる。大学病院のGICU(総合集中治療室)、ER(救急外来)勤務を経て、診療看護師を目指し大学院へ進学。2022年より当院に診療看護師として勤務。消化器内科に配属され、内視鏡センター、IBD(炎症性腸疾患)の専門外来、病棟管理などで活躍中。
NPの道を切り拓く
大同病院では現在、ICU、麻酔科、総合内科、消化器内科、腎臓内科、脳神経内科、整形外科、泌尿器科、在宅診療部で計10名のNPが活躍する。彼らは、動脈からの採血やカテーテルの管理など、従来は医師のみに許されていた診療にかかる特定行為を行うことができ、各科において医師とともに診療に当たっている。入院患者さんの急変・心肺停止に備えるRRT(迅速対応チーム)で初期対応を担うほか、医師と看護師双方の視点をもつことを生かし、さまざまな多職種チームのキープレイヤーとしても、その力を発揮する。当院におけるNPの歴史もまだ浅いゆえ、一人ひとりが開拓者だ。
そんな大同病院で、NPとなった越智優馬は、消化器内科に配属された。内視鏡診療に参加し、医師の指示のもと生検の補助や鎮静薬の調整などを行う。病棟では、医師らとともに入院患者さんを管理し、適宜医療行為を提供する。また外来では、当院が力を入れる炎症性腸疾患(以下、IBD)の診療に携わっている。
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自身の体験も生かした関わり
IBDとは潰瘍性大腸炎やクローン病という、腸管に炎症が起きて下痢や腹痛をもたらす難病で、近年10代後半から30代の若年層を中心に急増している。長くつきあっていかなければならない病気のため、医師や看護師のほか、薬剤師や管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなどさまざまな専門的立場から、患者さん一人ひとりの状況に応じて支援することが必要だ。越智は専門外来で、医師と患者さんの診療コミュニケーションがよりスムーズに進むよう、詳細な問診を行い、他の職種が介入しやすいよう、つなぎ役を担っている。
実は越智自身も、25歳のときに潰瘍性大腸炎を発症し、幸い軽症で現在は落ち着いているものの、下痢やそれによるOOL(生活の質)低下の辛さが身に染みている。「少しでも楽になってほしい、という想いで患者さんに接しています」
より診療の質を上げるために
一般の看護師は、「人」のケアを中心とするが、診療看護師はより医学的な専門知識と技能を身に付け、医師とともに診療に携わる。
「医師はやはり、病変はどういうものか、検査や治療方針をどうするか、といった評価と判断をしなければなりません。僕たちは、より安全に検査が行えるように、スムーズに診療が運ぶように、といったところを重視しています。看護師として患者さんにより近い存在でもあり、医師と共通の臨床的枠組みをもって、実践的にサポートできる立場には、とてもやりがいを感じています」
また、外来と病棟の双方に携わることによって、一人ひとりの患者さんにしっかり関わっていけることもNPの特徴だという。「医師や患者さんと、たくさんの情報を共有させてもらって、自ら考え、処置の方法を提案することもあります」
診療看護師というプロフェッショナルの道を切り拓く、NPたちの今後の活躍から目が離せない。