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「手」に違和感はありませんか?

透析療法と「手」の病気との意外な関係

透析で除去しにくい老廃物

長期間にわたり血液透析を続けていると、体内に溜まってくる老廃物があります。
人工透析は、機能が低下した腎臓の代わりに、通常は尿と一緒に排泄されるべき老廃物や余分な水分を除去する代替療法ですが、実は、透析膜では除去しにくい物質もあるのです。
それが、「β2ミクログロブリン」というタンパク質です。近年、透析膜の質が向上し、だんだん溜まりにくくはなっていますが、透析歴10年で3割ほど、20年では半数以上の方に現れるといわれています。

β2ミクログロブリンは、骨やじん帯、腱(すじ)などに付着して「アミロイド」という物質になり、やがて骨や関節の痛み、変形、運動障害を引き起こします。
これを「透析アミロイド症」といい、代表的な疾患が「ばね指」「手根管症候群」といった手の病気です。

ばね指とは?

「指を曲げる」動作は、屈筋腱というすじが、靭帯性腱鞘というトンネルのような組織のなかを滑らかに往復し、筋肉の力を関節に伝えることで可能になっています。

ところが、なんらかの原因で、腱や腱鞘が腫れて厚くなり、腱の通りが悪くなると、曲げた指を伸ばす途中で引っかかったように動かなくなります。
このとき、無理に力を入れて伸ばそうとすると、ばね仕掛けのようにカクンと弾けるようになるため、こうした状態を「ばね指」と呼びます。
親指にいちばん多く発生し、次に中指、また薬指、小指、人差し指にもみられます。

一般的な「ばね指」は、更年期の女性や妊娠・出産期の女性に多く生じ、また、手をよく使う仕事やスポーツをする人、糖尿病の方にもよく起こりますが、透析患者さんの場合は、指の付け根の腱や腱の通り道(腱鞘)にアミロイドが沈着することにより、腱の動きが悪くなり発症します。

初期の症状としては、指の付け根の痛みや腫れがあります。
痛みが強くなったり、指が動かしにくい、ひっかかるようになったと感じたら、まずは一度受診することをオススメします。
症状が進行すると、指が曲がったまま動かなくなったり、指が伸びたまま曲げることができなくなったりします。

どうやって治療するの?

保存療法

まずは手を安静にします。何よりも大切です。
痛みを抑えるために消炎鎮痛剤を飲み薬や塗り薬として使います。
腱鞘内に、少量の局所麻酔剤を含むステロイド剤(腱の腫れを抑えるお薬)を注射することで症状を和らげることもできます。

手術療法

保存療法を行っても症状が改善しない、指が曲がったまま伸びないといった場合には、腱鞘を一部切り離し、腱の通りを良くする手術療法を行います。皮膚を1~1.5センチ程度小さく切開するもので、局所麻酔の日帰り手術となります。

  • 腱鞘の一部を切開して、腱の通りを良くします

  • 小さな皮膚切開で手術を行います

手根管症候群

手根管症候群とは?

手首には「手根管」という、骨と靭帯に囲まれた空間があります。
ここには指の感覚や運動機能をつかさどる「正中神経」と、指を動かすための9本の腱(すじ)が通っています。
何らかの原因により、この手根管部で、正中神経が靭帯に圧迫されて神経障害が起こり発生するのが「手根管症候群」です。
正中神経の支配領域である親指、人差し指、中指、薬指に痛みやしびれが生じます。

ばね指と同様、更年期や妊娠・出産期の女性、手を頻繁に使う職業の人によく見られます。
透析患者さんの場合は、手首部分の靭帯と腱にアミロイドが沈着することにより、正中神経が圧迫されて手根管症候群が発症します。

どんな症状?

初期には、親指から薬指までのしびれを感じます。
進行すると、夜間や明け方に親指や人差し指、中指などに痛みを感じて目が覚めたり、親指の付け根の筋肉がやせてきて、ボタンかけなどの細かい作業が難しくなったりします。

診断方法は?

しびれの部位や、親指の付け根の筋肉の状態を確認します。
誘発テスト(手首をたたくとしびれや痛みが指先にひびくティネル様徴候の検査)、神経の機能を調べる検査(神経伝導速度検査)などを行います。

どうやって治療するの?

保存療法

まずは手を休めます。何よりも大切です。
装具を使って手首を固定することもあります。
痛みを抑えるために消炎鎮痛剤を飲み薬や塗り薬として使います。
手根管内に、少量の局所麻酔剤を含むステロイド剤(腱の腫れを抑えるお薬)を注射することで症状を和らげることもできます。

手術療法

保存療法を行っても症状が改善しない場合などには、靭帯を切って神経の圧迫を取り除く手術を行います。

1)局所麻酔を使った手術

手のひらの付け根部分の皮膚を2カ所小さく切り、関節鏡を手根管内に入れて靭帯を切ります。1泊2日の入院となります。

2)伝達麻酔を使った手術

腕の付け根の神経をブロックすることで局麻酔よりも広範囲に麻酔をかけ、手のひらの付け根部分の皮膚を切開し、手根管全体を確認して靭帯を切ります。神経の状態を詳しく調べることが必要な場合などに、実施します。1泊2日の入院となります。

  • 局所麻酔で関節鏡をつかった手術

  • 伝達麻酔で手のひらの付け根を切開する手術

  • 伝達麻酔をかける部分

筋肉がやせてしまうと手術を行っても筋肉が元にもどらない可能性があるので、筋肉が完全にやせてしまう前に手術することを検討します。
筋肉がすでにやせてしまっている場合は、早めに手術することが重要です。

「手外科」のご案内

透析患者さんで、手に痛みやしびれ、細かい作業がしにくくなった、親指の付け根の筋肉がやせてきた、などと感じたら、「手外科」をご受診ください。

大同病院の「手外科・マイクロサージャリーセンター」は日本手外科学会認定手外科専門医が2名在籍し、ばね指、手根管症候群の保存療法をしっかり行うことはもちろん、関節鏡を用いた、傷の小さい低侵襲手術を積極的に行っています。

透析を受けているクリニックまたは病院で、主治医の先生にご相談いただけましたら、紹介状を書いていただけます。

 

 

手外科・マイクロサージャリーセンター長
篠原孝明

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